たいむかぷせる2

何年か後に見なおして頭を抱えてくなるものたちのあつまり

数式アレルギーの人たちへ

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数学者でプログラマの結城先生の《数式アレルギー》に関する文章を読みました。ぼく自身も理系の端くれですし,色々と思うこともあるのでちょっと書いてみようと思います。

先生の言うように,数式っていうのは,われわれ理系にとってはものすごく大事なものです。それこそ「ことば」であったり,「共通語」であったりするかもしれません。数式はほとんどすべてを厳密に表現できるし,だれが見ても基本的には同じ情報が伝えられるからです。

でも,そうであっても,それが

何を怒っているかというと「私は数式アレルギーでして(てへ)」といってる(自称)大人に怒るのだ。勉強不足を恥じろよ。若者を自分のレベルまで落とそうとするなよ。文系ですからなんていうなよ。きょうび文系でもしっかり数式はよむぜ!若者を自分のレベルまでおとしめようとするのに腹が立つのだ。」

だと言っていいことにはならないと思うんです。

漢字が読めない若者を怒るでしょう?英語を読みたくないという若者を叱るでしょう?数式はそれと同じだ。

たしかにそうかもしれないなあ,って思います。でも,英語や漢字と数式とでは「生きるために必要かどうか」っていうことが,かなり根本的に違ってくるような気がします。数式にまったく触れなくても生きていける人は数多く存在するけれど,英語と漢字に触れなくても生きていける人は,数式のそれに比べると圧倒的に少ないんじゃないか,ということです。 加えて,漢字や英語は「生きているだけで自然に」身につけていく人もいるものです。数式はきちんと教育を受け,トレーニングを重ねないと読み書きすることはできません。


というような文章を書こうと思っていたのですが,どうやら先生が伝えたいのはそういうことではないようですね。

自分が使える武器を磨こう。武器とは言葉だ。日本語も英語もプログラムも数式も、あなたの武器だ。

氏はこのようにも述べていて,

大人は真剣に勉強しよう。真剣に考え、真剣に学ぼう。

最後にはこのように締めくくっています。

全員が数式を数学者のように読めと言っているのではない。そうではなく、歴史的な《知》に対する敬意が感じられない発言に腹を立てているのだな、私は、きっと。

けれど「大人が数式を学ぶ」っていうのも,そう簡単にいかないんじゃないかな,とも思うんです。なぜかというとそれは,先生が述べるように 歴史的な知 であるからです。数学とは(数学だけには限らないことですが)本当に気の遠くなるような先人たちの知恵の結晶の積み重ねの上に,成り立っているものだからです。

たとえば高校2年生の終わり〜3年生くらいで習う「微分積分」は,(諸説ありますが)実際に生み出されたのは17世紀です。つまり,1+1から始まって,がんばって高校生まで数学を勉強したとしても,300年も前の数学に追いつくのが精一杯だということです。

「お,数式なんだかおもしろそうだな」とか「数学ちょっとやってみようかな」と思って,実際に楽しくなるまでには,積み上がっているものがどうしても大きすぎるのです。数学の歴史が積み重ねの上に成り立っていたように,数学の教育も同じように積み重ね上に成り立っているからです。微分積分がわかるためには,Σの計算と極限がわかっていなければならず,Σがわかるためには数列が,数列がわかるためには方程式が,といった具合です。

受験とか教育とかではよく言われていることですが,これが数学のむずかしいところであり,数学が得意な人と嫌いな人をわけてしまう大きな要因の1つでもあります。ある地点でつまづいてしまったとすると,そこからいくら学んでも,それは基礎の悪い建物を作るようなもの。積んでも積んでも崩れていってしまうばかりです。

そこで「つまづいてしまったところ」まで戻って,そこからまた積み重ね直す,っていうのもなかなか時間的にむずかしいことです。だからこそ《数学アレルギー》になり,とりあえず見なかったことにしてしまうのかもしれません。

そんなわけで,《数学アレルギー》もなんだかんだしょうがないのかもね,というお話でした。とはいえ,結城先生の「数学ガール」なんかは,また今までと違った切り口で数学を捉え直しているし,前に書いた「積み重ね」をそこまで意識せずとも楽しめる,とてもいい本なんじゃないかな,とは思うんですけどね。

そう思うと,比較的歴史が浅く,始めてから数年で仕事に使えるくらいのレベルに達することができる英語やプログラミングなんかは,なかなか「真剣に勉強しやすい」のかもしれませんね。とはいえプログラミングも「なにがどうなっているのか」をしっかり理解しようとすると《数式アレルギー》を克服しなければならないのですが。

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